幸福 進化論 火災報知器 | 人生入門

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イタリア現代思想 アドルノ ヤスパース

幸福 進化論 火災報知器

 人間は「個体」が幸福になるように設計された生物ではない。「個体の幸福」という面から見ると、人間は欠陥品である。ではどのように進化してきたのか?それは「遺伝子が生き残るように」である。
 原始時代にAとBがいるとしよう。Aは、一つ木の実を食べれば満足してしまう。逆に、Bは満腹になるまで食べないと満足しない。次の日、同じ木へ行くと木は動物に荒らされていて、何も残っていなかった。Aは栄養不足で死ぬ。Bは生き残る。だから人間は過食してしまう。食べ物が溢れかえっている現代では、この機能は逆に「生活習慣病」という面で個体の幸福を阻害してしまう。
 人間がネガティブな感情を持ちやすいのも、それが「遺伝子の生き残り」に必要だったからだ。進化心理学ではこれを「火災報知器の原則」と言うらしい。間違えて鳴らないよりは、鳴りすぎるほうが良い、ということだ。一度でも火災報知器が間違えてならなければ、獣に襲われて死ぬ。だから少しの物音でもガンガンに火災報知器を鳴らす。上司に怒られる、いいねがつかない、友達と喧嘩をする、こう言った些細なことで火災報知器が暴走してストレスホルモンが出る。
 名声、金、セックスの追求がどう「遺伝子の生き残り」の可能性を増大させて、「個人の幸福」を損なわせるかは、新聞や文学作品を読めばわかると思う。
 これはかなり蓋然性の高い議論だと思う。進化論的に言って、人間は幸福になれない。

 「すべての人間の不幸は、部屋に一人で静かに座っていられないことに由来している。ーパスカル」
 なぜ人間は部屋に一人で静かに座っていられないのか?なぜならそういった遺伝子を持った人間は、必ず淘汰されるからだ。しかし、逆に言えば、部屋にただ座っているだけで幸福であれば、それはモノに依存しない、壊れない幸福である。

 人間はそのままでは幸福になれない、ということを前提にして、では、人間はどうすれば幸福になれるのか?と考える。論理的に考えると、「生物学的な指令を全部無視すればいい」となる。ではその方法は?

 思考、感情に気づき続ける。人間は一日に六万回思考し、そのほとんどがネガティブなものだと言う。全部火災報知器だ。だからそれを無視すればいい。それを「信じる」ことをやめたらいい。「将来が不安だ」「俺はダメな人間だ」という火災報知器を無視する。

 いきなり無視するのは難しいので、僕の場合、マントラ瞑想から始めた。「アハムブラフマースミ」という言葉を頭の中で繰り返しながら座るのを、一日二時間続けた。座っている時以外、読書している時も、恋人とフレンチを食べている時もずっと唱え続けていた。そうすると、マントラが自動化されてきて、勝手に頭の中でなるようになる。それが二週間ほど続き、頭の中のマントラとともに、頭の中の思考がほぼ停止した。浮かぶ思考もあるのだけれど、根無草のようで、もはや僕に影響を与えるものではなかった。僕は思考を信じないようになった。

 日本人は自分は何も信じないと言っているが、自分の思考だけは疑わない。しかし思考というのは勝手に湧いてくるもので、決して「自分」でもなんでもない。本当に思考が自分であれば、うつ病になる人なんかいないのではないのだろうか?思考というのは昔の名残で勝手に火災報知器が鳴っているだけである。

 ここからはちょっと変な話になるが、今の僕には全てが「瞑想」に感じる。浮かぶ思考も、身体も、鳥の声も、全てが「瞑想」であって、どこにも分離がない。僕は幸福である。

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