援助交際日和
僕は、最初なにがおかしいのか分からなかった。欠けているものがある。何かが足りない。いつもと違う、漠然とした不安。なんだか間延びした空気。まるで人から表情がなくなっていくような感じ。あ、なんで気づかなかったんだろう。この女、声を出していない。不感症なのだろうか。しかしこの女とヤったのはもう両手では数えきれない。毎回つつがなくセックスは終わっていたはず。女の顔を見る。ゆっさゆっさと揺れていて、上手く視認できなかったが、放心状態のような表情をしている。何かを思い出すような、それとも、これから死にゆくような顔をして、舌がだらりとしていた。不快だった。もしかして白目をむいてるかもしれない。
「おい、君、大丈夫か」
「あ、すみません」
と言った途端に、また顔を作り、声を作り、空念仏するように喘いだ。声は出しているが、私にはもう艶めかしく思う事は不可能だった。まるで映画を見ているようだ。私は一旦、性器を抜いた。
「君は、不感症なのか?」
「そうかもしれないです。生まれつきなんです。気にしないでください。」と言って、僕の性器を引っ張って挿入させようとする。 「ちょっと待ちなよ、僕は不感症の女に勃起しないよ。ずっと騙してたのか?」
「騙してるつもりはないんですけど、援交始めたての時、不感症の女に金は払えないって怒鳴られて、お金を払って貰えなかったことがあって。それでAVをたくさん見て勉強したんです。
「僕も不感症の女に金を出したくはないけどね」
まるで詐欺だ。こっちはホテル代別で、五万円も出しているのに。今までこの女に払った金額を総計すれば、その辺の軽自動車が買えるだろう。僕は少女を悪意を持って睨んだ。
「だって自分のおちんちんが気持ちよくなれればいいんでしょう?穴があればいいんでしょう?声なんてどうでもいいじゃないですか」
「どうでもよくない。雰囲気ぶち壊しだよ。お金払わなくていい?」
「入れたんだからお金はきちんと払ってください。そんなに私に感じて欲しいですか?」
「一人だけが気持ちよくなるならオナニーと同じだよ、感じるためのコツとかあるなら実践して欲しいね」
「じゃあ私のお腹を殴ってくれませんか?」
「なんで?」
「そしたら、イキます」
腹パンってやつか。いいだろう。僕は女子高生が程よい痛みを感じられるぐらいに加減して、殴った。女子高生は呻いているだけで、オーガズムには達しない。
「もっと強く殴ってください。ゲームセンターに、パンチ力を計測するゲームがあるでしょう?あれを殴るみたいに殴ってください」
女子高生を立たせて、肩ならしをする。僕はボクサーだぞと言わんばかりに無駄に腕を回して、全体重をかけて、殴った。
瞬間、僕は胸がすいた。体中にたまっていた毒素が全部気泡になって、破裂したみたいだった。将来に対するぼんやりとした不安などが、少女のお腹で鳴った「バチッ」という音とともに跡形もなく失せてしまった。一瞬の出来事だった。僕は、自分が大悟したのかと思った。
「゛ああ゛あ゛あ゛」と少女は蛙が潰れたような声を出して、イった。
「゛もうい゛っ゛かい」と言われたので、僕は図に乗ってもう一度、本当にボクサーになった気分でスパン!と殴った。
間違いなく大悟した。悟りを開いた。鬱積していたストレスが、軽い軽いものになって、体外へ出ていく。僕の身体自体も軽い軽いものになって、宙へ浮かびそうだった。頭の中のぐちゃぐちゃ、仕事とか家庭でのぐちゃぐちゃが、弾けた。殴った拳へ感じる反作用の痛みでさえ、弾けた。少女の腹は、臨済の「喝!」と同じだった。僕は大悟徹底し闊達自在の身になった。身体が全てほどけた。僕の身体はリボンで出来ていた。
「いぐ」と言って少女はイった。ぜえはあぜえはあと肩で息をしている。
「大丈夫?」
「大丈夫です。気持ちよかったです。ありがとうございました。口でするので、二万円だけ頂けませんか?」
「いや、その必要はないよ」
僕は射精していた。
家へ帰ると、妻が出迎えてくれた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
僕はずんずんと自室に、歩を進め、引きこもるように扉を閉めた。扉の外から「今日は肉じゃがですよー!」という声が聞こえた。
まだ先ほどの衝撃の残り香が残っていた。僕はサディストなんだろうか?それはないだろう。僕は至ってノーマルだ。人を痛めつける趣味はない。それにしても体が軽い。重力がなくなったみたいだ。しかも生まれたての赤ん坊のように、何も胸につかえるものがない。悩みも心配も不安も消え去っていた。肉じゃがができたようなので、軽い足取りで僕はリビングへ向かった。
「隣のお婆さんがね、子供の夜泣きがうるさいって今日わざわざ苦情言いに来たのよ」
また始まった。僕は胸が黒くなっていくのを感じた。以前、何かのポスターで、煙草を吸っていない人の肺と何十年か吸い続けた人の肺の比較画像を見たことがある。僕は今まさに煙草を吸っているのだと思った。
「それでね、でも向こうもお婆さんだから何も言い返せないじゃない?あなたから一言何か言ってくれない?子供が夜泣きするなんて当たりまえじゃない」
暗雲が立ち込める。僕は肺癌で死ぬだろう。
「ああ」と曖昧な返事をして、僕は適当にこの話を切り上げて、肉じゃがを急いでかきこんで、部屋を出た。
僕は興味が湧いたので、また少女に連絡を取った。援交に時間制限はないので、ゆっくり話を聞いてみようと思った。
「君はなんで不感症なの?」
「分からないです。オナニーでも何も感じません」
「名前はなんというの?」
「本名ですか?」と少女は嫌そうな顔をした。
「教えないなら、もう君のことは買わない。」
と言って、僕は吸っていた煙草をじりじりと灰皿へ押し付けた。新しく火をつけて、ぱあ、と煙を吐いた。
「私、佐伯と言います」
「佐伯ちゃんね、なんでお腹を殴られるとイくの?」
「それも分からないです」
「分からないだらけだな」僕は困った。女子高生との共通の話題など何もない。
「なんで、援交してるの?」
「出口が、ないからです」
「出口?」
「はい、出口です」
唐突に出た出口という意味の分からない単語に僕はたじろいだ。他の女子高生に聞くと、大体「淋しいから」とか「お金が欲しいから」とか返ってくるのに、出口がない、とはなんだろう。
「逃避願望みたいな?」
「そうとも言えるかもしれません。私、少し変なんです。親は一人っ子だから優しいし、勉強も困ってないし、友達も多いとは言えないけど、いるんですが、私少し、変なんです。」
少女の口調は淡々としていて、まるで壁に話しかけているようだった。
「私、未来が見えるんです。」
「未来?エスパー?」
「エスパーかもしれないです。このまま、T大学へ行って、そこそこいいところ、例えば電通とかに就職して、合コンとかして、結婚するんです。それで、子供を作って、育てて、子供が育ったら、喜んで、老後は施設に入って、おとなしく一人で本を読んだりして、死ぬんです。」
「そんな甘くないよ人生。仕事一つとってもさ、僕もミスばかりだし、育児だって大変だよ、嫁の機嫌もとらなきゃいけないし」
「はい、そういうのも全部分かるんです。私、エスパーなんで」と言って佐伯は少し口角をあげた。この子が笑っているのは初めて見たかもしれない。
「それで?出口なしっていうのは?」
「私、死ぬんですよ、多分、六十年後とかに。勉強して、働いて、お兄さんの言ってたように、苦労も重ねて、死ぬんですよ。私は未来が見えるんです。」
「要するに君は敷かれたレールの上を走るのが嫌ってことか?やけにロックな女なんだね、君は」と言って僕は笑ったが、佐伯は笑わなかった。
「閉じ込められてるんです」
「どこに?」
「人生に」
「誰に?」
「多分、神様とか」
思春期によくある逃避願望だと思った。ここではないどこか、というやつだ。
「旅行でも行く?お金は出すから」
「行かないです。どこにも行けないんです」
佐伯は頑なに僕の眼を見ない。どこか中空を見ている。
「また殴ってもいいかな」
「いいですよ、気のすむまで殴って。私、おまんこだけじゃなくて、全てに対して不感症なんですよ。これも生まれつきです。私、笑ったことがないんです。感情がないんです。何にも興味が持てなくて。いい子ちゃんを抜けたら何かあるかもしれないと思って援交を始めたんですけど、それも出口じゃありませんでした。でも、殴られているときだけは、どこかへ飛んでいる気がするんです。鈍い痛みが、お腹で爆発して、全身が熱くなって、頭が真っ白になるんです。そのあと不思議と、罪の意識を感じるんです。私はこれに持論を持っていて、罪というのは罰から引き出されるものなんです。殴られるという罰によって、私の命の奥にある罪が引っ張り出されるんです。私は罪人だ、って思うんです。その罪悪感だけが、私が人生で感じる感情なんです」
「出口と罪と、何か関係があるの?」
「罪は猛烈に私を人生に引き付けるんです。だから入口と言えるかもしれませんね。出口がないというより、私は人生に入門してないだけなのかもしれないです。罪という鍵によって、人生に入門できる…。」
ぺらぺらと歯切れと活舌はよく、聞き取りやすいが、相変わらず誰に話しているのかよく分からない。多分僕のことなど眼中にないのだろう。僕は彼女が援交している男の内の一人でしかなく、全くどうでもいい存在なんだろう。僕だってこの女のことなんてどうでもいい。けれど、佐伯が他の男とセックスしているのを想像すると、むらむらと嫉妬の炎がわいてきた。僕は、嫉妬心に任せて、殴った。けれども以前のような、宙へ浮かぶ感覚は一切現れなかった。佐伯はおうっおうとアシカのような声を出してオーガズムに達していた。
「お兄さんも出口が欲しいから奥さんがいるのに女子高生を買ってるんでしょう?でももう賞味期限切れですよ。殴っても出口は現れない。私たちは一生出口を探しながら旅をするんです。でもその出口もすぐ色あせてしまうんです。」
翌日、「女子高生、全裸で飛び降り自殺か」というニュースが目についた。僕はそれを直感的に佐伯だと思ったが、記事によると遺体の損壊が激しく身元不明とのことだった。どっちでもよかった。その夜、僕は妻と一緒に、菓子折りを持って、隣人の家へ詫びを入れに行った。
「おい、君、大丈夫か」
「あ、すみません」
と言った途端に、また顔を作り、声を作り、空念仏するように喘いだ。声は出しているが、私にはもう艶めかしく思う事は不可能だった。まるで映画を見ているようだ。私は一旦、性器を抜いた。
「君は、不感症なのか?」
「そうかもしれないです。生まれつきなんです。気にしないでください。」と言って、僕の性器を引っ張って挿入させようとする。 「ちょっと待ちなよ、僕は不感症の女に勃起しないよ。ずっと騙してたのか?」
「騙してるつもりはないんですけど、援交始めたての時、不感症の女に金は払えないって怒鳴られて、お金を払って貰えなかったことがあって。それでAVをたくさん見て勉強したんです。
「僕も不感症の女に金を出したくはないけどね」
まるで詐欺だ。こっちはホテル代別で、五万円も出しているのに。今までこの女に払った金額を総計すれば、その辺の軽自動車が買えるだろう。僕は少女を悪意を持って睨んだ。
「だって自分のおちんちんが気持ちよくなれればいいんでしょう?穴があればいいんでしょう?声なんてどうでもいいじゃないですか」
「どうでもよくない。雰囲気ぶち壊しだよ。お金払わなくていい?」
「入れたんだからお金はきちんと払ってください。そんなに私に感じて欲しいですか?」
「一人だけが気持ちよくなるならオナニーと同じだよ、感じるためのコツとかあるなら実践して欲しいね」
「じゃあ私のお腹を殴ってくれませんか?」
「なんで?」
「そしたら、イキます」
腹パンってやつか。いいだろう。僕は女子高生が程よい痛みを感じられるぐらいに加減して、殴った。女子高生は呻いているだけで、オーガズムには達しない。
「もっと強く殴ってください。ゲームセンターに、パンチ力を計測するゲームがあるでしょう?あれを殴るみたいに殴ってください」
女子高生を立たせて、肩ならしをする。僕はボクサーだぞと言わんばかりに無駄に腕を回して、全体重をかけて、殴った。
瞬間、僕は胸がすいた。体中にたまっていた毒素が全部気泡になって、破裂したみたいだった。将来に対するぼんやりとした不安などが、少女のお腹で鳴った「バチッ」という音とともに跡形もなく失せてしまった。一瞬の出来事だった。僕は、自分が大悟したのかと思った。
「゛ああ゛あ゛あ゛」と少女は蛙が潰れたような声を出して、イった。
「゛もうい゛っ゛かい」と言われたので、僕は図に乗ってもう一度、本当にボクサーになった気分でスパン!と殴った。
間違いなく大悟した。悟りを開いた。鬱積していたストレスが、軽い軽いものになって、体外へ出ていく。僕の身体自体も軽い軽いものになって、宙へ浮かびそうだった。頭の中のぐちゃぐちゃ、仕事とか家庭でのぐちゃぐちゃが、弾けた。殴った拳へ感じる反作用の痛みでさえ、弾けた。少女の腹は、臨済の「喝!」と同じだった。僕は大悟徹底し闊達自在の身になった。身体が全てほどけた。僕の身体はリボンで出来ていた。
「いぐ」と言って少女はイった。ぜえはあぜえはあと肩で息をしている。
「大丈夫?」
「大丈夫です。気持ちよかったです。ありがとうございました。口でするので、二万円だけ頂けませんか?」
「いや、その必要はないよ」
僕は射精していた。
家へ帰ると、妻が出迎えてくれた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
僕はずんずんと自室に、歩を進め、引きこもるように扉を閉めた。扉の外から「今日は肉じゃがですよー!」という声が聞こえた。
まだ先ほどの衝撃の残り香が残っていた。僕はサディストなんだろうか?それはないだろう。僕は至ってノーマルだ。人を痛めつける趣味はない。それにしても体が軽い。重力がなくなったみたいだ。しかも生まれたての赤ん坊のように、何も胸につかえるものがない。悩みも心配も不安も消え去っていた。肉じゃがができたようなので、軽い足取りで僕はリビングへ向かった。
「隣のお婆さんがね、子供の夜泣きがうるさいって今日わざわざ苦情言いに来たのよ」
また始まった。僕は胸が黒くなっていくのを感じた。以前、何かのポスターで、煙草を吸っていない人の肺と何十年か吸い続けた人の肺の比較画像を見たことがある。僕は今まさに煙草を吸っているのだと思った。
「それでね、でも向こうもお婆さんだから何も言い返せないじゃない?あなたから一言何か言ってくれない?子供が夜泣きするなんて当たりまえじゃない」
暗雲が立ち込める。僕は肺癌で死ぬだろう。
「ああ」と曖昧な返事をして、僕は適当にこの話を切り上げて、肉じゃがを急いでかきこんで、部屋を出た。
僕は興味が湧いたので、また少女に連絡を取った。援交に時間制限はないので、ゆっくり話を聞いてみようと思った。
「君はなんで不感症なの?」
「分からないです。オナニーでも何も感じません」
「名前はなんというの?」
「本名ですか?」と少女は嫌そうな顔をした。
「教えないなら、もう君のことは買わない。」
と言って、僕は吸っていた煙草をじりじりと灰皿へ押し付けた。新しく火をつけて、ぱあ、と煙を吐いた。
「私、佐伯と言います」
「佐伯ちゃんね、なんでお腹を殴られるとイくの?」
「それも分からないです」
「分からないだらけだな」僕は困った。女子高生との共通の話題など何もない。
「なんで、援交してるの?」
「出口が、ないからです」
「出口?」
「はい、出口です」
唐突に出た出口という意味の分からない単語に僕はたじろいだ。他の女子高生に聞くと、大体「淋しいから」とか「お金が欲しいから」とか返ってくるのに、出口がない、とはなんだろう。
「逃避願望みたいな?」
「そうとも言えるかもしれません。私、少し変なんです。親は一人っ子だから優しいし、勉強も困ってないし、友達も多いとは言えないけど、いるんですが、私少し、変なんです。」
少女の口調は淡々としていて、まるで壁に話しかけているようだった。
「私、未来が見えるんです。」
「未来?エスパー?」
「エスパーかもしれないです。このまま、T大学へ行って、そこそこいいところ、例えば電通とかに就職して、合コンとかして、結婚するんです。それで、子供を作って、育てて、子供が育ったら、喜んで、老後は施設に入って、おとなしく一人で本を読んだりして、死ぬんです。」
「そんな甘くないよ人生。仕事一つとってもさ、僕もミスばかりだし、育児だって大変だよ、嫁の機嫌もとらなきゃいけないし」
「はい、そういうのも全部分かるんです。私、エスパーなんで」と言って佐伯は少し口角をあげた。この子が笑っているのは初めて見たかもしれない。
「それで?出口なしっていうのは?」
「私、死ぬんですよ、多分、六十年後とかに。勉強して、働いて、お兄さんの言ってたように、苦労も重ねて、死ぬんですよ。私は未来が見えるんです。」
「要するに君は敷かれたレールの上を走るのが嫌ってことか?やけにロックな女なんだね、君は」と言って僕は笑ったが、佐伯は笑わなかった。
「閉じ込められてるんです」
「どこに?」
「人生に」
「誰に?」
「多分、神様とか」
思春期によくある逃避願望だと思った。ここではないどこか、というやつだ。
「旅行でも行く?お金は出すから」
「行かないです。どこにも行けないんです」
佐伯は頑なに僕の眼を見ない。どこか中空を見ている。
「また殴ってもいいかな」
「いいですよ、気のすむまで殴って。私、おまんこだけじゃなくて、全てに対して不感症なんですよ。これも生まれつきです。私、笑ったことがないんです。感情がないんです。何にも興味が持てなくて。いい子ちゃんを抜けたら何かあるかもしれないと思って援交を始めたんですけど、それも出口じゃありませんでした。でも、殴られているときだけは、どこかへ飛んでいる気がするんです。鈍い痛みが、お腹で爆発して、全身が熱くなって、頭が真っ白になるんです。そのあと不思議と、罪の意識を感じるんです。私はこれに持論を持っていて、罪というのは罰から引き出されるものなんです。殴られるという罰によって、私の命の奥にある罪が引っ張り出されるんです。私は罪人だ、って思うんです。その罪悪感だけが、私が人生で感じる感情なんです」
「出口と罪と、何か関係があるの?」
「罪は猛烈に私を人生に引き付けるんです。だから入口と言えるかもしれませんね。出口がないというより、私は人生に入門してないだけなのかもしれないです。罪という鍵によって、人生に入門できる…。」
ぺらぺらと歯切れと活舌はよく、聞き取りやすいが、相変わらず誰に話しているのかよく分からない。多分僕のことなど眼中にないのだろう。僕は彼女が援交している男の内の一人でしかなく、全くどうでもいい存在なんだろう。僕だってこの女のことなんてどうでもいい。けれど、佐伯が他の男とセックスしているのを想像すると、むらむらと嫉妬の炎がわいてきた。僕は、嫉妬心に任せて、殴った。けれども以前のような、宙へ浮かぶ感覚は一切現れなかった。佐伯はおうっおうとアシカのような声を出してオーガズムに達していた。
「お兄さんも出口が欲しいから奥さんがいるのに女子高生を買ってるんでしょう?でももう賞味期限切れですよ。殴っても出口は現れない。私たちは一生出口を探しながら旅をするんです。でもその出口もすぐ色あせてしまうんです。」
翌日、「女子高生、全裸で飛び降り自殺か」というニュースが目についた。僕はそれを直感的に佐伯だと思ったが、記事によると遺体の損壊が激しく身元不明とのことだった。どっちでもよかった。その夜、僕は妻と一緒に、菓子折りを持って、隣人の家へ詫びを入れに行った。
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