美
もっとも高い芸術はすべてそのように人の魂の底にしみて、霊を目ざめさせるものでなければならぬだろう—————川端康成
美というものを最近はなんとなしに考えているけれど、霊性といってもいいし、仏性と言ってもいいし、神性と言ってもいいし、イデアと言ってもいいけれど、美というのは何かしら永遠に関係している気がする。プラトンのイデア論はそのことを隠さずに、そのまま言った。「美しいものは、永遠なる美のイデアを分有しているから美しい」
散る桜のような無常の美、滅びゆく廃墟の美というのもあるが、基本線は永遠性のアトムを持っていることだと思う。つまり「時よ止まれ、お前は美しい」
これを逆の方から言うと、冒頭の川端康成の引用のように、自分の霊性を開花させるものを美だと言ってもいいかもしれない。人間には何かしら永遠な部分がある。その種を発芽させる縁が美だ。
「時よ止まれ、お前は美しい」というのは天才詩人の吐いた、普遍的なセリフであるように思う。美しい恋人とベッドで見つめあっている時、吐く言葉。「この時間がずっと続けばいいのに」
世界は美しい。僕は自然というのは本当に美しいと思う。子供の頃は、半日アリの巣を観察する行為を毎日続けていても飽きなかった。
自殺志願者によく「生きてたらいいことあるから生きよう」と言うけれど、「世界は美しいから、生きようよ」ということは可能だろうか。世界は美しいから、生きるに値する。道端に咲いている一輪の百合、天使のようにゆっくり振ってくる雪。世界が美しいから、生きる。僕は美というのは、世界を肯定する力があるように思う。永遠性が命を貫く。そういう瞬間がある。
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