ニヒリズム 愚 | 人生入門

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再来年中に読むもの
イタリア現代思想 アドルノ ヤスパース

ニヒリズム 愚

 僕は、古代ギリシャと鎌倉時代と現代日本の精神状況は似ていると思う。虚無主義が蔓延している。何が正解か分からない。生きる意味が分からない。

 古代ギリシャの場合、タレスが万物の原理は水だという説を提示した。これは神殺しに匹敵するだろう。古代ギリシャの場合、オリュンポスの神々はかろうじて生きていたが、それもソフィストに殺された。ソクラテスも、死後の世界はあるのかないのか分からないと言っている。
 ソクラテスは無知の知を説いた。そして称揚として死んでいった。死後、魂が残るのなら、自分は善しか行っていないので、安心だ。死後が無ならば、それは夢を見ない眠りのようなもので、絶対的な幸福だ。これはソクラテスについているダイモーンが言わせている。「他者」が言わせている。僕はこんな言葉が人間に吐けるとは思えない。ソクラテスは一種の悟りを持っていたと思うが、それはダイモーンが異界から囁いていたからだ。そしてソクラテスにダイモーンがついてたのは、彼が無知の知を持っていたからだと思う。

 日本の鎌倉時代に目を転じてみると、やはり時代は腐敗している。方丈記を読むと分かるが、飢餓や天災などで多くの人が亡くなり、仏教も腐敗していて、どうしようもない状態になっていた。ここでもキーワードは「愚」になってくると思う。ダイモーンは愚に憑依する。というか、己をたのんでいるものは、他者を受け入れない。あの学識豊かな法然が愚痴の法然房と名乗ったのも、親鸞が愚禿親鸞と名乗ったのも、ニヒリズムの時代で、本当に何も分からなかったからだろう。「何が善だやら悪だやら、何が真理だやら非真理だやら、何が幸福だやら不幸だやら、一つも分るものでない。我には何にも分らないとなったところで、一切の事を挙げて、ことごとくこれを如来に信頼する、と云うことになったのが、私の信念の大要点であります。」これは清沢満之の言葉だけれど、何も分からない、とお手上げになったとき、その空っぽの真空に、《他者》は入り満ちるのだと思う。

 そして現代。海図なき航海の時代とか言われている。みんな生きている意味が分からないだろう。オリュンポスの神々がまだ少し生きていたり、迷信的なものが残っていた鎌倉時代よりも、ニヒリズムは先鋭化していると思う。無知の知、《愚》を先鋭化する。僕には何も分からない。お手上げだ。そして上げた手で、合掌をする。人間には何も分からない。ただ愚の真空に入ってくる他者を待つのみだ。

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