タナトスの誘惑 | 人生入門

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哲学書読書計画
今まで読んだもの
丸山圭三郎 プラトン アリストテレス エピクテトス デカルト ロック バークリー ヒューム スピノザ ラカン ニーチェ パスカル キルケゴール ショーペンハウアー ハイデガー ウィトゲンシュタイン プロティノス 龍樹 孔子 老子 荘子 クリシュナムルティ マルクス・ガブリエル マックス・シュティルナー ウィリアム・ジェイムズ シオラン ベルクソン ライプニッツ 九鬼周造 カント シェリング 波多野精一 メルロ・ポンティ ニーチェ ヘーゲル マルクス サルトル レヴィナス

今年と来年中に読むもの
西田幾多郎 フィヒテ バタイユ アウグスティヌス トマス・アクィナス パウル・ティリッヒ カール・バルト ガザーリー 清沢満之 曽我量深 金子大栄 安田理深

再来年中に読むもの
イタリア現代思想 アドルノ ヤスパース

タナトスの誘惑

 人間は、欲望という興奮を抑えるために、生きる。食欲、性欲、睡眠欲などの、「興奮」を抑えるために、人間は、活動をしていく。興奮の度数が高いほど、不快が強く、興奮がなくなるほど、不快が弱くなり、快が強くなる。けれども、欲望という興奮をなくすために生きているのならば、それは「死」へと向かっているのでは…?煩悩が滅した境地というのは、涅槃という、死人が住んでいる場所ではないのか…?
 僕にとって、食欲や、性欲はどうでもよかった。僕を「興奮」させるのは、倦怠感や疲労感という、身体に絡みつく「不快」だった。倦怠故に、活動をすることもできないし、極度の疲労感故に、寝ることもままならない。僕にとって不快のゲージを下げるのは、「死」以外に考えられなかった。タナトス。心理学用語にしては、あまりに神話的なこの言葉が、僕の頭蓋骨に憑りついたのは、いつのことだったか…。

 医者から貰った抗不安薬をかじりながら、無職の僕は、ぼーっと街へ出る、歩けば1時間かかるデパートへ本を買いに、電車へ乗る。僕の身体と僕はある種の違和を起こしていて、駅へ向かっている「知覚」を「知覚」しているのが僕で、駅のホームにいる「僕」を「知覚」しているのが僕だった。とにかく体が重い。ずっと下にうつむいている。うつむきながら歩いていると、高校生ぐらいの少女とぶつかった。彼女が話しかけていたスマートフォンが、駅のホームにからんころんと転がった。ちらりと画面を見ると、彼女はどこかのサイトで配信をしているらしい。シロアリのようなコメントで、画面が埋め尽くされていた。彼女がスマートフォンに手を伸ばしたと同時、僕も彼女のスマートフォンに手を伸ばした。手が触れた瞬間、顔を見た、瞬間、彼女が、何をしようとしているかが分かった。
 僕は、駅のホームをあとにした。彼女は僕と同じ匂いがした。彼女の脳内には、暗い神話が生きている。ホームを出た瞬間、女の悲鳴と、男の怒号が聞こえた。彼女はもう、遅すぎた。僕にはまだ早すぎる。
 家に帰ると、久々によく睡眠がとれた。

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