引きこもり
俺は、翼をもがれている。毎日、日が昇って目を覚まし、暗くなったら寝る。その繰り返しで、生活に張り合いがない。朝、家族が出かける前に「おはよう」と言ってくるので、俺も「おはよう」と返事をする。一日の中で発する言葉はそれぐらいで、あとは誰とも会話をしない。
母親とは、生まれた直後に諸事情で離ればなれになってしまったので、孤独には慣れた。劣等感なんていう高級なものも持ち合わせていない。なんせ、俺と比べる相手がいないのだから、誰にも劣等していない。家族が仕事へ行っている間、俺は、部屋の中で、哲学らしきものをしてみることもある。窓から少し見える青空を眺めながら、母親のことを考えながら、食べて寝るだけの人生に、意義というものがあるのかどうかを、ふと考えてしまうこともある。こういう思考は本当に「ふと」襲ってくるもので、おそらく、ソクラテスの「ダイモーン」もこんな感じだったのだろう。突然の、異世界からの異物の、思考への侵入。思考とは、自発的なものではなくて、他者からの贈り物である。だけれど、俺にとって他者とは、たまに顔を突き合わせて喋る程度の家族しかいないのだから、皮肉なものだ。部屋にこもって、刺激がないと、新しい思考も生まれない。どんどん自閉していくのが分かる。自己の内面を見つめるほど空虚で、体の中も、精神の中も、もみ殻のように空っぽだ。3秒で全てを忘れてしまうようなお粗末な脳みそに、サアっと思考の風が吹く。「今日のご飯はいつ頃だろう」というのが主な内容だが、たまに「外の世界はどうなっているのだろう」「俺も羽ばたける日が来るのだろうか」「なぜ生きているのだろうか」という、鈍色の風も吹く。昨日は昨日の風が吹いて、今日は今日の風が吹く。
ストレスがたまると、暴れてしまう。暴れたあとに、「切れる引きこもり」という紋切型の存在になったような気がして、すうっと、存在が薄くなる。
「ただいまー」家族が帰ってきた。
「ピーちゃん。今日も元気にしてた?」
母親とは、生まれた直後に諸事情で離ればなれになってしまったので、孤独には慣れた。劣等感なんていう高級なものも持ち合わせていない。なんせ、俺と比べる相手がいないのだから、誰にも劣等していない。家族が仕事へ行っている間、俺は、部屋の中で、哲学らしきものをしてみることもある。窓から少し見える青空を眺めながら、母親のことを考えながら、食べて寝るだけの人生に、意義というものがあるのかどうかを、ふと考えてしまうこともある。こういう思考は本当に「ふと」襲ってくるもので、おそらく、ソクラテスの「ダイモーン」もこんな感じだったのだろう。突然の、異世界からの異物の、思考への侵入。思考とは、自発的なものではなくて、他者からの贈り物である。だけれど、俺にとって他者とは、たまに顔を突き合わせて喋る程度の家族しかいないのだから、皮肉なものだ。部屋にこもって、刺激がないと、新しい思考も生まれない。どんどん自閉していくのが分かる。自己の内面を見つめるほど空虚で、体の中も、精神の中も、もみ殻のように空っぽだ。3秒で全てを忘れてしまうようなお粗末な脳みそに、サアっと思考の風が吹く。「今日のご飯はいつ頃だろう」というのが主な内容だが、たまに「外の世界はどうなっているのだろう」「俺も羽ばたける日が来るのだろうか」「なぜ生きているのだろうか」という、鈍色の風も吹く。昨日は昨日の風が吹いて、今日は今日の風が吹く。
ストレスがたまると、暴れてしまう。暴れたあとに、「切れる引きこもり」という紋切型の存在になったような気がして、すうっと、存在が薄くなる。
「ただいまー」家族が帰ってきた。
「ピーちゃん。今日も元気にしてた?」
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